Unknown@Presence

色々あれこれ。

その5 ナミ

アクセスのマニュアルを作って下さい、とCDを渡されたけれど、私のPCにはアクセスは入っていないと赤城さんに説明したら、緊急用の携帯に電話が掛かってきて、暗ああい女の人の声で「他の人のPCには入っているはずなのでハードごと交換するか部屋を替えて下さい」とのことだった。お互いに質問しあうなっていうのはどうなってるんですかと聞こうとしたら切れた。
 どっちが面倒か。
 部屋かPCかというより、一ヵ月近く経ったのにほとんど喋っていない相手に話し掛けるのが一番面倒だ。しかも二人とも男子で、うち一人はかなり年下らしい。まあ、こっちが勝手に年食ってるんだけど。
 ほぼ扇型に仕切られたそれぞれの部屋のドアは中央に集まっていて、ナミが部屋を出るとすぐ左右にドアがあることになる。
 しょうがないので右をノックする。
「はいっ」意外にも明るい声で返事が返ってきて、びっくりして飛び下がったので、反対側のドアに肘がぶつかってしまった。そしたらそのドアからも返事が返ってきて、ほぼ同時に開いた。
 自分の部屋に逃げ帰ろうとしたけれどそれも変なので、「あ、あの、えー、アクセスが私のPC、あ、いや、初めまして」
 右、つまり西側が大きな声ではっはと笑い、東も釣られて笑う。西は30前半、東はまだ子供に見える。挨拶したのは西だな。
「え、あの」「あ、すみません、PC調子悪いんですか」「いいえ。アクセス使いたいんですが、私のところにはインストールされてなくて」「あ、それで」
「はい。で、ステップスタイルがPC交換しろって」「え、でも、オレらって口きいていいんですかね」「いいんじゃないですか。喋らずに交換するなんて無理っすよ。俺んとこもアクセスありますよ。あっ、でも使うな俺」「オレんとこはいいですよ。ネット繋がってますよね」「はい。ノーツまで入ってますけど使いませんね」あ俺ノーツないや、と東が悔しがる。
「んじゃ、オレのPC持って行きますよ。ちょっと待ってて下さいね」「すみません」
 西、いや白川君は5分もしないうちにPCを持ってきてくれた。予想通りメーカー同じ。
「ん、ここ、ちょっと寒いっすね」
 キャビネットの上にPCを置くと、長い二の腕をさすった。
「クーラーが調節できないんです」んで、これ、と手袋を示す。白川君はははあ、と笑って、
「多分この部屋って、もとはホールだったんでしょうね。それでなんか丸っこいんですよ」「白川さん、でしたっけ」「はい、武田さん、ですよね」「はい」「白川さんちは寒いですか」
「オレんちですか、ははは、寒くはないですけど、サーバーうるさくて」「サーバー?」
 サーバーがなんであるんだろう。サーバーといえばブロードで、会社によっては立ち入り禁止だったりするのに。白川君が持とうとするのを遮って(自分で運びたい)ひょいとPCを抱えて、白川君の部屋に入った。
「あ、ちょっと」「はい。武田さんの部屋が一番広いんですよ、たぶん」「へえ、でも、ガラスブロックいいですね」
 パーテーションにフックがかかっていて、薄手の柔らかそうなジャケットがふわっと揺れた。
 あれ。なんか初めて彼氏の部屋に入ったみたいにどきどきするぜ。久しぶりだぜこんな感じ。
「そのサーバーね、うるさくて」ナミのPCにコードを差し換えながら白川君は説明する。
「どの、サーバーですか」「その隅にある白っぽいやつです」ええっ、これがサーバー。クーラーの室外機みたい。
「どこにも繋がってないのに電源だけ入ってて」
「ああ、うちのPCも針金でコード束ねてました」
「なんか、ここのセッティングって、ちょっとどうかなって感じですよね」「はい。針金外しましたよ。食い込んでたんで」
 ははは。白川君はよく笑う。
 元ナミのPCは無事立ち上がり、元白川君のPCには確かにアクセスが入っていた。右上に見慣れないメモパッド。
「なんか変なことがあったらいつでもどうぞ。白川」
 あかん、惚れてまう。

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