Unknown@Presence

色々あれこれ。

その9 495点

 やっぱ武田さん、俺の母ちゃんよりも年上だ。
 TOEICの話になって、俺が無料だったから受験してみたら495点だったって告白したら、武田さんは初めて受けた時は415点だったって言った。
「勝ったあ!」って言ってやったら、「私の高校時代に始まったんだからしょうがないよ」って訳分かんないこと言ってた。TOEICは79年に始まってるから、えーと。
 でも、若く見えますね、とは言わなかった。俺の姉ちゃんがいつも言うんだけど、むやみに若く見えるって言うのは失礼なんだって。ねえねえ私いくつに見える、とか聞かれたら適当に若めに言ってやればいいらしいけど。
 俺の姉ちゃんはなんか物知りで、ちょっと浮ついたところのある母ちゃんより実は年食ってんじゃないかっていう噂もあったりして、いろんなことを知っている。
 今度のハケンの部屋って蜂の巣みたいになっててさ、と話してたら、姉ちゃんは「これ読んでごらん」と本をくれた。くれたんじゃなくて貸してくれたんだけど。
 仮面ライダーのミイラみたいな表紙だったので最初はびびったけど、なんか、とてもよく出来てる本だった。
 アメリカでアーモンドの受粉に使われてる蜜蜂が消えている、っていう話だった。小説じゃなくてドキュメンタリーなんだけど、うまいことできてて、俺は不覚にも三回泣きそうになった。
 寿命を迎えた蜜蜂が死んでいくところ。交尾を終えた雄の蜜蜂がポイ捨てされるところ。
 そして、蜜蜂がいるのは役に立つからじゃなくて、花畑で蜜蜂が機嫌よくぶんぶんしてると楽しいからだ、っていうところ。お母さんが家にいるとトーストにジャムを塗ってくれるから、じゃなくて、お母さんがいると嬉しいからだ。それでいいんだよ、っていうところ。
 うちの母ちゃんも、ヨン様のことを今だに好きで、父ちゃんにマフラーをヨン様巻して喜んだり、半年に一回は友達と韓国に旅行に行ったりしてきゃあきゃあしてるんだけど、いてくれると嬉しい。
 俺はヨン様のドラマに出てくるヒョンとかいうのに似てるらしくて、小さくなった学生服を無理矢理着せられて写メ撮られてヨン様仲間で回されたりした。
 そんな母ちゃんでも、いないと寂しい。
 俺が蜂のことにちょっと詳しいのは、俺が中退した高校の学年主任が蜂の研究をしていて、一年生は必ず講演を聞かなければならなかったからだ。その先生(みんなハチと呼んでいた)は、俺が退学するころには退職していて、たぶん俺はハチから蜂の話を聞いた最後の学年になるんだと思う。
 でも、アジアの蜜蜂はズズメバチに団子状に群がって羽を高速で動かして体温を上げることで、スズメバチを熱で殺してしまうんだ、って話は初めて知った。
 姉ちゃんもそれはこの本で初めて知ったらしくて、「日本人みたいだね」って言った。
 うーん、そうかなあ。確かに、蜂団子の中の方の蜜蜂は死んでしまうから犠牲的精神ってとこなのかも知れないけれど、日本人て、そういう戦略持ってるかな。敵の周りでうろうろしてるだけな感じだけれど。むしろ西洋の蜜蜂みたいに、一匹ずつぺっぺっぺっ、って感じだけどな。

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