Unknown@Presence

色々あれこれ。

その10 410点

ホール

 オレは410点だったよ。でもちょっと言い訳させてもらうと、マークシートがずれてるのに残り20分で気づいたからなんだ。だから2回目は520点になった。派遣会社によっては三千円で受験させてくれるので、年に一回は受けることにしていた。
 でも、600を越えたのは一回だけ。だから去年は受けなかった。
 人間には伸びしろというものがあって、オレのTOEICの伸びしろは630か、せいぜい650なんだと思う。他の試験は落ちたことがないから、それが限界なんだろう。
 うどん一杯680円はキツイ、と武田さんが言ってくれたので助かった。オレもカツ丼700円は困る。野菜少ないし。
 それより、部屋の共有スペース、みんなはホールと呼んでいる、そこに例のソファと一階のロビーの椅子とテーブルを一組運んできて食堂にすることにした。
 このビルは元々何だったんだろう、という話になる。腹ごなしにビルの中を探検だ。
 ビルは、ターミナル駅から伸びる商店街の端、東に線路に沿って2ブロック、南に曲るとある。あたりはすっかり普通の住宅街になる。このビルは7階建てで背が高い方だけど、間口は狭い方だ。
「一階は受付があったみたいっすね」蒼井君は各階をざっと見てきたことがあるらしい。
 確かに、床に受付のブースの跡がある。自動販売機がずらーっと並んでいて、形も色もバラバラの椅子やテーブルがこれもまたばらばらに並べられている。
「ホテルじゃないな」ホテルにしては、いくらなんでも床面積が狭過ぎる。フロアごとにシングルルームが2つも入らないだろう。
「いや、ドア開けたら一歩でベッド、っていうホテルでテレビセッティングするバイトしたことありますよ。あそこの広さなら4つはいけそう」「うわあ、いけたくない」
 オレ達がいるのは4階で、男女両方のトイレがあるのは4階だけらしい。5階と6階には事務所があって、ハンカチで手を拭きながらサンダルをつっかけて歩く紺色の制服の女の人を時々見かける。
「でも、きれいに使ってる方だと思うよ。女子トイレに化粧ポーチが山積みになって下の方が黴生えてたりすることあるもん」
 武田さんて化粧してるのかな・・してるみたいだ。分かんないけど。
 7階には何もない。といっても事務所の残骸のようなものはあって、埃をかぶった机にとても古いPCが乱雑に積まれていて、あんまりなので横倒しになっているのを起こしたりした。
 丸くなっているのは4階まで。3階には歯医者が入っている。2階は塾になっていて、夕方にはランドセルの子供が出入りする。
「あの子ら、妙にちゃんと挨拶するんすよ」「ああ、最近の子供はね、大人を見たら挨拶しなさいって教えられるんだって。んで挨拶し返してこなかったらそいつは犯罪者なんだとさ」「えーつ、それでが、俺、挨拶しなかったらすげー睨まれた」「蒼井君怪しいもんね」「ええーっ」
 武田さんと蒼井君は話のリズムが妙に合う。
「こうしてみるとうちって結構広いっすね」「所有格かよ」みたいな。
「なんか俺、武田さんみたいな人初めてっすよ」「何よそれ」「いや、そんな深い意味じゃなくて、いや、深くないけど意味がなくはないんすよ。俺の周りで武田さんみたいな、なんていうかさばさばした人いなくって」「さばさば?」「あの、悪い意味じゃなくて、ざっくりっていうか、すっぱりっていうか、でも、男臭いっていうじゃなくて」
 男臭い。失礼この上ない。

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