Unknown@Presence

色々あれこれ。

その12 パーテーション

 にしても、なんであんな鼻が赤いんだろう。
 そういえば、赤城さんはビルに入ってきたことがない。緊急連絡用っていいつつ三日おきに掛かってくるケータイで、外の喫茶店に呼び出される。赤城さんはいつもふうふう汗をかいていて、水ばっかり飲んでる。チノパンのお尻がテラテラになってるのに最近気づいた。気づきたくなかった。
「で、どうですか」エクセルの質問に分析ツールっていうのが出てきて、実は俺は統計関数フェチなので、帰無仮説っていう言葉もすぐに分かったよ。へへ。でも赤城さんには話さない。
「はい、大丈夫です」有意だったりなかったりするんだよ。有意だとちょっと嬉しい。でも話さない。
「そうですか。困ったことはないですか」
 実は、今朝一番に困ってた。
 武田さんのぎゃあが聞こえて、白川さんが飛んできた。
「大変大変」と言いながら、白川さんは笑ってた。武田さんと白川さんの間のパーテーションが外れたのだ。
「あーあ」「上のネジが根元から折れてるね」「危ないなあ」「いっそのこと、全部とっぱらっちゃおうか」
 ということで、俺は7階に道具箱があったのを思い出す。ドライバープラス、4本ある。
 パーテーションはカーテンレールに吊るされていて、床に軽く止められる、という形式。
「部屋の中の、対角線のパーテーションだけ外そうか」
 そういえば、俺の部屋にはもう一本カーテンレールが走っていた。あ、他の部屋にもある。
 三人で外すとあっという間だ。ああ、すっきりした。パーテーションの体積分も広くなるんだもんな。そんな話読んだことあるよ。事務所は面積単位で借りてたり税金払ってたりするんだら、面積の無駄遣いはまんま経費の無駄遣いになる、って。
 机を島状に集めてきた。うわ、ほんと広いな。
 あ、武田さんとこのロッカー、使わないんだったら貸してもらおうかな。
「あ、キャビネットみっけ」「それ、鍵壊れてますよ」
 ふふん、と武田さんは鼻を鳴らして、鞄からヘアピンを出してくる。鍵穴こちょこちょ。開いた。閉める。ちゃんと開く。女ドロボー。
「ほんじゃロッカーあげる」「うわ、ほんと臭いな」でも俺はマイ消臭スプレーを持っているのだ。
 そんなこんなも、話さない。「はい、ないです」
 白川さんはテンキーじゃなくて文字キーの側で数字入力する癖がある。すっげえ早いけど。武田さんはかな入力だ。「80年代にはね、みんな親指シフトキーだったのよ」何それ。
 俺は何だろう、画像の加工かな。切ったり貼ったりするのは早いと思う。ソフトの使い方を説明する時、ボタンの周りを囲って矢印を引っ張ったりするのも早いと思う。
 2ヵ月近くやってると、どんどん早くなっていく。でも、話さない。
 当然だけど、白川さんのスキミング説のことも話してない。あれからも時々昼間にその話題が出たりする。IDカードからスキミングしようと思うと接触させないと無理だし、もし接触しないでデータを取れるにしても、あまりに効率が悪過ぎる、と武田さんは効率論だ。
 もしかしたら非接触チャージ式スキミングのテストかもよ、と白川さんはちょっと面白がってる。俺は、何かあるよなーという気はするけれど、それが何かは良く分からない。
 悪いやつは物凄く頭がいいから、俺が分かるようなことはしないのだ、きっと。
 そんなことより、夕べ姉ちゃんにパーテーションとっぱらって武田さんと白川さんと同じ部屋になってさ、と話してたら「あら四神じゃないの」と母ちゃんが言ったので、驚いた。
 母ちゃんは今だに髪の先に縦巻きカールしてるような人だけど、人の話に口を挟む人じゃないからだ。あ、もしかしてヨン様がらみか。
「そうよ。四方にはそれぞれの神様がいるのよ」「しほう、って何よ」「東西南北」「それが何でししんなの」「東が青龍で、西が白虎で、北が玄武なのよ」「だから青春、っていうのよ」と姉ちゃん。
 なんで。「東西南北は春夏秋冬にあてはまるからね。でも、それだと南がないね」「南は何なの」「えと、朱雀。朱色だから赤ね」「あ、赤、あ、ない、赤はない」「え、ないの」「ないないない」赤城さんは入れない。