Unknown@Presence

色々あれこれ。

その18

「ねー、あんた赤はいないっていったじゃん」
 赤城さんが家に電話してきたので、姉ちゃんが虐める。
「あかぎだけど、赤じゃないよ」「え、赤に城でしょ、普通」「なんか、アジアの亜に可能の可とか、そんなだよ。珍しいんだって」「へー」
 赤城で正解だけど、赤じゃない。
 ビルの停電で月曜は休んでくれとのことだった。工事かな。まあ、時給は出るらしいし、ちょっと朝寝してベースの練習してたら陽が暮れた。
 カセットはカセットテープのことで、ヨン様がピアノ録音して好きな人に送ってたやつでしょ、って武田さんに確認しよう。
 ビルの前に、赤城さんとスーツの男の人が立っていた。すっごい背が高い。赤城さんて、スーツ着ることもあるんだな。膝が抜けそう。新しいの、ないのかな。今はスーツも安くなってるのに。
「少しお話ししたいことがあって」
スーツの男の人に反応して、赤城さんがぺこぺこする。こういうオモチャ、あったよな。
「このお仕事ですが、今日で終了ということになります」
 えっ、という俺の声が一階に響く。
「誠に申し訳ない」
 スーツの人は役人、いや、官僚、いや違うわ、独立行政法人だから、えーと、天下りの人らしい。
「みなさんのお仕事には、実は別の側面、つまり意味がありまして、年代の違う男女が、どのように職場で協調していけるのかという、いわば実験のような側面もありました」
 ふーん。
「しかしですね、この実験の被験者である皆さんに、実験の目的を全く知らせずにいるというのが、なんといいますか、法律的におかしいということで」
 でも、実験だって知らせたら実験じゃないような気も。
「それに、本当ならば6人が参加する予定だったんですね」
 赤城さんて、何に頷いてるんだろう。どこまで知ってたのかな。
「二十代、三十代、四十代以上の高齢者の男女で、ということだったんですが、どうしても人が足らなくて見切り発車のようなことになってしまって」
 高齢者って、男臭いより失礼じゃないか。
 じゃあやっぱり、仕事には意味はなかったの?
「いえ、仕事の方は、皆様のスキルに応じて対応させていただいておりました」
 赤城さん、なんでそこで大きく頷くの。
「また、この赤城がお渡ししておりましたIDですが」
 うわ、呼び捨てなんだ。
「実は、どの改札を通っても通過した時刻が記録されるIDとして試作したものだったのですが、正常に作動しませんでした」
 うわ、踏んづけなくてよかった。
「こちらのほうも、用途を明確にせずにお渡ししたことが好ましくない、ということでした。ですが、情報等は全て削除させていただきますので、ご安心ください」
 ふーん。つまり、成果が出なくて首にされちゃった、ってこと?
「いえ、その、今回は、と言いますか、派遣会社は関係ございません」
 関係ないってどう関係ないの。
「すべてこちらの手違いということで、九月分の時給については全額支払いさせていただきます。もちろん今日からお仕事を探されても構いません」
 この説明もスーツの人がするのってどうかな、と思っていたら、赤城さんが
「あ、あのっ、私からお渡しするものがあります」
 懐から何か出してくる。
「ほんの気持ちになるんですが、どうかお使いください」
 プリペイドカードだった。うっ、ちょっと湿ってる。これって登録した時にもらえるやつの余りかな。
「事務所に何か私物はありますか」ポット。コーヒーもあるよ。
「では、私どもはここでお待ちしておりますので」
 本当に6人集まってたら六角形になって蜂だったなあ、と思いながら4階に上がる。
 パーテーションがない。机がむき出しになってる。俺のポットがぽつん、とある。白川さんのサボテンがない。武田さんは、失礼しまーす、引き出しの中にハーブティの箱だけ。ということは、白川さんはもう来ないんだ。
 嘘ついたんだな、赤城さん。
 いや、つかされたんだ。でもたぶん、嘘だってことも分かってないんだろうな。
 もう来ないだろう白川さんの机の引き出しにメモを入れた。よかったらメールください。
 武田さんのハーブティの上にも。ちゃんと打ち上げもしてないし。

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