この天気を取っておけたらなあと、東京で働く友人に送る荷物を梱包しながら同居人が言う。そろそろ西陽が気になる季節だけど、葦簾はまだ広げていない。
去年の今頃は雅子さまスペシャル見てワクワクしていたのに。そうだね。それが今年はこんなことになってね。そうだね。
そういえばあの年は、山盛りの藤の花を見た。同居人の退院に付き添った病院からの帰り道、羽二重の白と淡い紫の藤の花を見た。
福岡で藤の花が刈り取られたというニュースを見て、そんなことを思い出していた。
そういえば、去年は近所の桜が工事のフェンスに遮られてあんまり見えなかったから、今年こそたっぷり見てやると思っていたのに。
桜の近所には花水木の白とピンクが並んで植えられている。ちょっと捻れた花びらが強気に空に向かっている。電車の窓から見えた桃が一本、立ち枯れてしまっているのも見た。
どの年にも、どの春にも、そういえば、がある。黄砂が酷くて歯茎が腫れてしまった春、桜の向こうで街が砕け散った春。
でも、今年の春を「そういえぱ」で終わらせないようにしよう。私たちは、毎度毎度いつものことだけど迂闊で、備えを怠った。遺伝子のかけらを甘く見ていた。対岸の火事だと高をくくっていた。日本はなんでもかんでも世界一、だから医療崩壊なんて起こるわけないと思い込んでいた。
卒業式も入学式もできなかった春のこと。
みんなで覚えていよう。
そしてまた必ずやってくるいろんな災いに、みんなで対処しよう。