Unknown@Presence

色々あれこれ。

極東から

あれは40年前。

1982年3月。バイト先で、小さな写真を囲んで大騒ぎしていた。写っているのは美しい若い男性、軍人のように見える。裏には見慣れない文字で署名。
「なんて書いてあるの?」「レニングラードの思い出に」
きゃー。
彼女は大学でロシア語を専攻していて、帰りの電車でよく話した。
ソ連て、いつかなくなるのかな」「うーん、なくなるとしても、もっと先かな」
それから十年と経たずにベルリンの壁は崩壊しソ連はなくなり、東西冷戦は終わった。
国鉄もJRになり、昭和も終わって、21世紀が始まった。
ネットで知り合った人は、会社でちょっと齧ったロシア語を使ったら評判になったという。友人の友人にもロシア語のエキスパートがいた。
まあ、その頃はスベイン人と結婚した人が知り合いに三人もいたから、ロシア語ができる人がいてもそんなに不思議じゃなかった。
神戸にはロシア料理の美味しい店がたくさんあって、三宮駅の西口にも美味しいボルシチを出すレストランがあった。ピロシキもついていた。

ボルシチウクライナの名物だということはつい最近知った。ウクライナといえば棒高跳びブブカっていう人の出身国だな、確かチェルノブイリウクライナだな、最近ロシアがクリミアに侵攻したな、くらいしか知らなかった。
それくらいしか知らないな、で、ずっといたかった。遠い遠い、黒海の北にある国なんだよ、で、ずっといたかった。

戦争は常に起こっている。いつもどこかで多くの人が迫害され、家を追われ、強制労働させられている。
なのに、いつもは腰の重い日本が、どの国より早く制裁や難民受け入れに動いたのは、ウクライナの大統領に名指しされたからだ。
日本のことは好きだ。尊敬している。ありがとう。
そう言われて、何もしなかったら。
ロシアと同じだと見なされる。ネスレみたいに叩かれる。

ウクライナの大統領は賢い。どの国に何をいえばいいか、どんな言葉で他の国を動かせばいいか、よく知っている。さすがはロシアと長年戦ってきた国だな、と思う。
けれど、彼を英雄扱いするのは良くないとも思う。
彼も、賢い彼も失敗したのだ。
どうすればロシアの侵攻を防げたか、それは分からないけれど、方法はあったはずなのだ。

桜が咲いても、気持ちは晴れない。