Unknown@Presence

色々あれこれ。

お題「今日のよかった(^^)」

快速電車が空いていて座って帰れたよ。だいぶ楽チンね。20分も乗らないんだけどさ。

いつ終わるとも知れない部屋の片付け中に、100円ショップでまたちっちゃい植物を買ってしまったの。だって、ワイヤープランツとテーブル椰子が寂しそうなんだもの。それから拾ってきたローズマリーも。

先週ホームセンターでもちっちゃい植物探したけど、あんまりいいのがなかった。昔はローズゼラニウムがあったりしたんだけどね。

100円ショップはフェイクのサボテンばっかりになることもあるけど、分厚くて丸い葉っぱのカポックと、オシャレなヒダヒダの葉っぱが可愛いベラエアみっけ。ペラエアかな。ペラエアの方がいいな。

ワイヤープランツは長々と伸びてきたので、すのこで作った棚に乗せて垂らしてみたぞ。わりといけている。東向きの部屋なので夏でも涼しいし、冬も陽が差し込むので暖かい。

二十年しまいっぱなしだった枕とか古いパジャマなんか(引っ越ししてきた時のままということ)もさっぱり捨てて、あちこち綺麗になってきたです。

感熱用紙の書類なんかも捨てるべし。古い発泡スチロールも捨てる。絶対読まない貰った本も処分します。

もっと片付いたら、また100円ショップにちっちゃい植物探しに行こうかな。

お題「居酒屋で頼むもの」

古いファイルの移行に若干手間取っているので、しばらくお題でも。

居酒屋で頼むもの。その居酒屋によって違ってくる。サングリアが美味しかったバルではムール貝頼んだね。スーブがいいのよ。野菜を焼いたのにソースつけるやつ、バーニャカウダも。やっぱりサングリアはヨーロッパの暑いとこのつまみが合う。

ビールがやけに美味しい店では細いパスタの揚げたのがまず定番。ブルスケッタは名物だった。普段はあんまり食べないピザをここでは食べる。ナポリ風の皮がパリパリしたやつね。チーズの盛り合わせも頼むぞ。

ワインが安くてお得だった店ではアクアパッツァ。トビウオうまーい。ゴボウの揚げたのに粉チーズかかかっているだけでなんでこんな旨い。

創作おでんが名物だった店では日本酒はお店の人に選んでもらった。そんなに高くないのにいい店だったなあ。しばらく行ってないけど。

カヴァの冷やしたのを出してくれる店では必ず刺身を頼む。合うのよ。むしろ日本酒より合うかもな。カンパチがあんなに美味しいと思わなかった。

馴染みの店ではおつまみは店のお薦めに従う。それとその店の名物も頼む。

冷やし蛸焼きとか。山芋のお団子の中に蛸が入っててひんやりしたダシの中にころころしてるのよ。

手羽先餃子とか。手羽坂の中に餃子の中身が入ってて揚げてあるのな。一時期神戸で流行ってたよ。

冷製パスタとかな。時間はかかるしシェフ不機嫌だけど旨い。野菜春巻きとかな。本格ベトナム料理で、野菜ばっかりなのでいくらでも食べられた。

店は料理で覚えている。時々料理を真似したりもする。ジャガイモのサラダに菊菜を混ぜると綺麗なうえに美味しい。卵焼きに大根おろし添えるといい。

もう若くないので、大勢でワイワイ食べることはない。大量に飲むこともなくなった。まあ、二日酔いからの回復が恐ろしく遅くなったってこともあるんだけど。

美味しい料理をゆっくり味わって、じっくり楽しみたい。

 

夏が来ても思い出さないかも。

お題「夏の日の思い出」

もう50回以上夏は経験しているので、思い出話はそこそこできるけれど、それが十代の終わりだったかそれとも二十代の最後のあたりだったかそれとも四十代の始めかっていうと確かでなくて。

若い頃はよく泳ぎに行っていた。ほとんどプール。そういや淡路島に泳ぎに行ったら台風が来たな。家族旅行の定番は日本海で海水浴。母の実家がある三重県では川で泳いだね。キャンブもした。ハワイでも泳いだよ。海外旅行はそれっきり。

でも、生まれて初めて泳いだのは瀬戸内海。播磨灘。今はなき高砂の浜。

私は二歳、だったはず。いやまだ一歳半かな。黄色い水着にピンクの帽子、父に手を引かれている。

たぶん私の一番古い記憶。父がマテ貝の取り方を教えてくれた。穴を見つけたら塩をひとつまみ入れるんや、そしたらマテ貝がぴっくりして出てくるから、引っ張り出してチュルッ、って食べるんや。

にこにこ笑いながらそう教えてくれた父の顔はよく覚えているが、赤ん坊の私は彼を父親だと認識できていなかった。「なんだこのおっさんは。何をにこにこしてるんだ」と訝しく思ったことを、はっきりと記憶している。

夕焼けが綺麗だった。白い砂浜はどこまでも続くように思えた。これが海だ。誰かが行言った。海は広いな大きいな。誰が歌っていたのか。それは覚えていないが、果てしないもの、美しいもの、眩しいもの、それが海だというのは理解していた。

そして、美しいものは永遠でないことを、しばらくして知る。浜は鉄鋼所の下に沈み、古い唄に謳われた白砂の浜は永遠に消えた。父は工場を眺めながら言ったものだ。人間の力はすごいなあ。

海水浴を楽しむ人が減っているという。泳ぐことそのものを楽しむというより浜で騒ぐことを面白がる人が増えているからとも、猛暑のため浜辺に出られないからだともいう。

美しいものが永遠でないように、夏も永遠でない。もしかしたら、夏そのものもなくなってしまうのかも。いやもう、なくなりつつあるのかも。

選択という選択。

30歳の冬。12月30日。前の日から飲み続けて3時過ぎに友人のマンションに転がり込み、マドンナのビデオを見ながら化粧も落とさずに爆睡した。

毎年どんどんひどくなる。そんな友人のため息混じりのセリフをぼんやり聴きながら年は開けて、さすがに酔いも覚めた正月。通信制大学の試験を終えて、ワインバーで記念の赤ワイン。シメのコーヒーが来るのがなんだか妙に遅くて、コーヒー豆ブラジルまで買いに行ったのかね、などと笑っていたのが1月16日日曜日の夜。

だからといって人生観が変わったわけではない。親しい人を失わずにすんだからかも知れない。私は傷一つ負わず、古い木造のアパートも壁にヒビが入っただけだった。

二十年以上が経ち、あの時埃と瓦礫にまみれていた街に、マンションを買って住んでいる。夏には蝉がうるさいほど泣き、秋は落ち葉で歩道が埋まり、冬は海の上に雪が降り、春は桜で薄紅に染まる。

人生とはつまり選択の連続で、私は成人する前に実家を出るという選択をした。それは物心つく前からの目標で、自分で髪を洗えたり自分でリンゴの皮を剥けるようになるのと同じ次元の目標だった。

そこからはもう毎日毎日選択しているようなもので、今日の夕飯は豚モモ肉の炒め物にするか鶏肉のソテーにするかそれとも近所のお肉屋のレバーのマリネにするかというのが面白くて仕方なかった。今でもそうだ。料理はすればするほど腕が確実に上がるし目利きになれるので本当に楽しい。掃除も能率的にこなせば楽しいし、気持ちがいい。もちろん洗濯も好きだ。ベランダで洗濯物がどんどん乾いて行くのを見るとちょっと興奮する。

なぜそれがそんなに楽しいのか。

それは、自分のためだからだ。

自分の食べる、着る、寝るを快適にするための選択だからだ。自分が快適に生きて行くための選択だから、楽しいのだ。

大学入試に失敗してやむなく地方公務員になって、最初はグダグダ言っていたけど街で飲み歩くのが楽しくなり、けど仕事はつまらないので5年で辞め、実家は出ていたので自炊を楽しみ、ぼちぼち高卒も飽きたので大学に行き、ぶらぶらしていたら近所の工場で面白い仕事があり、そろそろ飽きてきたらまた近所の外資系の会社で募集があって事務の派遣になり、いろんな会社に行きながらなんのかんので働いている。

それもこれも、自分のために選択したからだ。自分が楽しいか、面白いか、その度に決めてきたからだ。

誰かのために生きる、というのが好きではない。亡くなった人の分も生きなさいというのも。高校に入ってすぐ、中学の同級生が踏切の事故で亡くなった。大嫌いだった国語の教師が葬儀の席で言ったものだ。「あの子の分まで生きなさい」

誰かの代わりに生きることはできない。それが人生だ。その人の人生はその人にしか生きることができない。だからこそかけがえがないと言えるのだし、大事にしろとも言えるのだ。

だから私は、他の人の分まで生きようとは決して思わない。たとえ誰かにそれを望まれたとしても、私は私のために生きる。私にとって、それこそが人生だからだ。

だから、誰かに期待されているからとかみんながそうしているからという理由でいろんな選択を人任せにする人がいても、それはそれでその人の人生なんだと思う。もしかしたらそれが一番その人にとって良い選択だったかもしれないし、逆かもしれない。そんなことは誰にも分からない。

選択するのが苦手なら、決断するのが苦手なら、とりあえずできそうな選択からしてみるのもいいかも知れない。それでうまく行ったら儲けものだ。それも無理ならとりあえず一切の選択をせず、ひたすら忠実に目の前の勉強や仕事に集中するのもいいかも知れない。もしかしたら、美味しい選択肢が降ってくる、かも知れないし。

 

 

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その19

 ビルの前に赤城さんとスーツの女の人が立っていた。赤城さん、スーツそれ、上下が合ってないんじゃあ。
「今日は大変大事なお話があるんですう」
名刺を見せながら女の人が言う。はーん、役人ね。
「あ、あの行政法人ってありますけど、私天下りじゃないんですう。実は私も派遣なんですう」
 ついにスキミングで摘発、か。
「実は、今日でこのお仕事終了ということになってしまって、申し訳ありません」
 んなわけないよな。いくらなんでも新聞に出るわな。
「皆さんがされてたお仕事って、職場の環境をリサーチするためのものだったんですう。なので、本当だったら男女6人でえーと、二十代三十代四十代って、集めるはずだったんですけど」
 6人も。あんな狭いところに。
「本当はもっとたくさんで4階と7階に分かれてもらうはずだったんですけど、結局3人だけということになってしまって」
 実験になりません、ってことね。
「えと、というより、こういうことって、まずいらしいんですね。つまり、モニターさんしてもらう相手には、モニター内容の安全性とかをきちんと説明する義務があるみたいなんですう」
 さっきから赤城さんは一言も喋らないで、女の人に合わせてぺこぺこしてるだけ。この人はどのくらい知らされてたんだろう。
「それから、こちらの赤城がお渡ししていたIDなんですけど、実はこれもモニターの一環でして、改札を通過すると時刻や駅名が入っていくはず、だったんですけれど、なんかうまく作動しなくて」
 はーん、それで武田さんが一回反応したって言ってたんだね。
「それも、使用目的を明らかにせずに携帯させる、っていうのもまずいらしいんですよう」
 うまく作動しないから毎週違うのを渡されてたのか。
 まあ、スキミングは外れてたけど、そんなに遠くはなかったか。
「こちらのミスということで、九月分はすべてお支払いいたします。契約は今日までで完了ということなので、次のお仕事を探されてもいっこうに構いません」
「あ、あの」
 赤城さんがやっと口を開いた。
「あの、私どもも誠に申し訳ないということで、こちら少額なんですけれどもお納めください」
 プリペイドカード。うーん、地下鉄のは使わないけど。それに、そのままポケットに入れてたから湿ってるけど。あんまり湿ってると誤動作するんだよ。
 あっ、もしかしてID、赤城さんの湿りが原因?
「私物とか事務所に置いてらっしゃいますう?」「はい、少し」「では、ちょっとお時間差し上げますので、取ってきていただけますう?」
 お時間差し上げ、ってこの場合正しいのかな、と思いつつ4階に上がる。
 パーテーションが外されている。机がむき出しで、PCも椅子も、あのサーバーもない。蒼井君のポットと、俺のサボテンと服のフックだけがある。
 いろんなとこで仕事してきたけど、こういう終わり方は初めてだ。
 サボテンは持ってきた時の袋も置いてあるので入れるだけ。
 蒼井君のポットの下と、武田さんのハーブティの上にメルアドを書いたメモを置いて、ふと思った。
 オレ達はたぶん、一日に一人ずつ、別々に呼び出されるんだろう。事務所に勝手に上がらないように、赤城さん達が待ち構えている。
 だから、オレのメモは処分されるんだろう。最初にあったパーテーションが外されていることには気づかない癖に。
 そういうことだけには気が回りそうだ。だからこそ、オレ達を遠くから呼び寄せたんだろう。
 それでも多分オレ達は、また出会うことになるだろう。
 だって、派遣の世界は狭い。仕事が多い場所も限られている。派遣会社だって無数にあるわけじゃない。
 もうすぐ夏休みが終わる。まばらだけれど足早な人波にちょっとだけ逆らって、振り返りながら歩いてみた。

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その18

「ねー、あんた赤はいないっていったじゃん」
 赤城さんが家に電話してきたので、姉ちゃんが虐める。
「あかぎだけど、赤じゃないよ」「え、赤に城でしょ、普通」「なんか、アジアの亜に可能の可とか、そんなだよ。珍しいんだって」「へー」
 赤城で正解だけど、赤じゃない。
 ビルの停電で月曜は休んでくれとのことだった。工事かな。まあ、時給は出るらしいし、ちょっと朝寝してベースの練習してたら陽が暮れた。
 カセットはカセットテープのことで、ヨン様がピアノ録音して好きな人に送ってたやつでしょ、って武田さんに確認しよう。
 ビルの前に、赤城さんとスーツの男の人が立っていた。すっごい背が高い。赤城さんて、スーツ着ることもあるんだな。膝が抜けそう。新しいの、ないのかな。今はスーツも安くなってるのに。
「少しお話ししたいことがあって」
スーツの男の人に反応して、赤城さんがぺこぺこする。こういうオモチャ、あったよな。
「このお仕事ですが、今日で終了ということになります」
 えっ、という俺の声が一階に響く。
「誠に申し訳ない」
 スーツの人は役人、いや、官僚、いや違うわ、独立行政法人だから、えーと、天下りの人らしい。
「みなさんのお仕事には、実は別の側面、つまり意味がありまして、年代の違う男女が、どのように職場で協調していけるのかという、いわば実験のような側面もありました」
 ふーん。
「しかしですね、この実験の被験者である皆さんに、実験の目的を全く知らせずにいるというのが、なんといいますか、法律的におかしいということで」
 でも、実験だって知らせたら実験じゃないような気も。
「それに、本当ならば6人が参加する予定だったんですね」
 赤城さんて、何に頷いてるんだろう。どこまで知ってたのかな。
「二十代、三十代、四十代以上の高齢者の男女で、ということだったんですが、どうしても人が足らなくて見切り発車のようなことになってしまって」
 高齢者って、男臭いより失礼じゃないか。
 じゃあやっぱり、仕事には意味はなかったの?
「いえ、仕事の方は、皆様のスキルに応じて対応させていただいておりました」
 赤城さん、なんでそこで大きく頷くの。
「また、この赤城がお渡ししておりましたIDですが」
 うわ、呼び捨てなんだ。
「実は、どの改札を通っても通過した時刻が記録されるIDとして試作したものだったのですが、正常に作動しませんでした」
 うわ、踏んづけなくてよかった。
「こちらのほうも、用途を明確にせずにお渡ししたことが好ましくない、ということでした。ですが、情報等は全て削除させていただきますので、ご安心ください」
 ふーん。つまり、成果が出なくて首にされちゃった、ってこと?
「いえ、その、今回は、と言いますか、派遣会社は関係ございません」
 関係ないってどう関係ないの。
「すべてこちらの手違いということで、九月分の時給については全額支払いさせていただきます。もちろん今日からお仕事を探されても構いません」
 この説明もスーツの人がするのってどうかな、と思っていたら、赤城さんが
「あ、あのっ、私からお渡しするものがあります」
 懐から何か出してくる。
「ほんの気持ちになるんですが、どうかお使いください」
 プリペイドカードだった。うっ、ちょっと湿ってる。これって登録した時にもらえるやつの余りかな。
「事務所に何か私物はありますか」ポット。コーヒーもあるよ。
「では、私どもはここでお待ちしておりますので」
 本当に6人集まってたら六角形になって蜂だったなあ、と思いながら4階に上がる。
 パーテーションがない。机がむき出しになってる。俺のポットがぽつん、とある。白川さんのサボテンがない。武田さんは、失礼しまーす、引き出しの中にハーブティの箱だけ。ということは、白川さんはもう来ないんだ。
 嘘ついたんだな、赤城さん。
 いや、つかされたんだ。でもたぶん、嘘だってことも分かってないんだろうな。
 もう来ないだろう白川さんの机の引き出しにメモを入れた。よかったらメールください。
 武田さんのハーブティの上にも。ちゃんと打ち上げもしてないし。

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その17

家電に赤城さんから電話が掛かってきて、なんかむっとした。でもぐっとこらえた。
 ビルの電気系統が故障したので、2日休んでくれないか、ということだった。日曜の夜なのに大変ですね、と電話を切る。大人になったなあ、私も。
 2日分の時給は出るらしい。なんか変だな、と思ったけど、電話を掛け直す気にはなれなかった。月曜は朝寝して洗濯したら終わっていったので、火曜は髪を切って本屋に行ってTシャツ買ってきた。
 水曜。ビルの前に赤城さんと、スーツの男が立っていた。今どきあり得ない黒ぶち眼鏡。赤城さんもスーツだ。可哀想なくらい似合わない。スーツの男が名刺を差し出す。
 独立行政法人・労働環境問題分析監視会議・分室 労働環境問題分析協議会秘書室・次長 なんとか某。厚労省系ね。
 こんなところではなんですから、と一階に座らされる。
「実は、おわびしなければならないことがあって」
 スーツが何か言う度に赤城さんがぺこぺこして、うっとおしい。
「このお仕事、事情があって今日で終了ということになります」
 あんまり驚かなかった。
「率直に申し上げますが、今回のお仕事には労働環境の適正化をはかろうという目的のために、生別や年齢層の違う方々がどのように人間関係を形成していくか見ていく、という、いわば実験のようなところがありまして」ははーん。
「特に、IT関連業務に携わる方の中には、こう申し上げては大変失礼なんですが、他の方とコミュニケーションを取るのが苦手な方が多くて」はいはい。
「当初の予定では、二十代、三十代、失礼ですが四十代以上の男女6人でスタート、ということだったんですが、なにぷんにも女性はパソコンが苦手な方が多く、四十代以上の男性もそうでして」んなことないだろうよ。
「結局、見切り発車のようなことになってしまい、しかも大変失礼ですが被験者である武田さんには、これが実験であるということを知らせていない、ということが非常に問題となりまして、このようなことになりました。申し訳ございませんでした」
 ふーん。んじゃ、やっぱり仕事そのものにはあんまり意味はなかったんだ。
「いえ、そのようなことはありません。実務の中でみなさんがどのように人間関係を作っていかれるか、ということを主眼としておりましたので」
 いやだから、その主眼とやらがポシャったってことは、と言おうとしてやめる。多分、霞ヶ関かどっかの誰かの気分が変わったかなんかで監査が入ったってところだろうな。珍しいことじゃない。出社したその日に社長が交代して、テレビカメラ肩に担いだ連中がわんさかいた、よりずっと普通だ。
「こちらの赤城がお渡ししておりましたIDですが、実はあのIDで皆さんの出退勤も管理させていただいておったんですが、それも実は問題となりまして」
 そりゃそうだろう。用途のはっきりしないものを渡したわけだから。
「いえ、実はそちらのシステムは、駅の改札と連動しておりまして、鞄から出し入れしなくても反応するようになっている、はずでした」
 はずでした。
「そのはずでしたが、全て正常に作動せず、こちらの方のデータは全く取れておりませんので、御安心ください」
 御安心。思わず笑ってしまった。
「あの、お怒りはごもっともです。心ならずもこのような状況となってしまい、私どもと致しましても不徳の致すところと深く反省しており」
 うんぬん。
 それにしても、赤城さんてこの程度のことも説明できないんだな。その方がよっぽど不徳なんでないの。
「つきましては、九月分の時給はすべて出勤なさったものとして、満額お支払いさせていただきます。もちろん、明日からすぐにでもお仕事を探されてもいっこうに構いません」
 この説明くらいしなきゃ、赤城さん。
「あっ、あの」
 赤城さんが懐から何か取り出した。
「私どもといたしましても、誠に申し訳なく、お詫びの気持ちとして小額ではございますがこちらをお納めいただけましたら」
 交通局のプリペイドカードとコンビニのプリペイドカード。うう、どっちもあんまり使わないけど。あ、チケットショップで売ればいいのか。
「あの、あのお二人とは連絡を取り合ったりしてはいないですね?」「あのお二人とは」「白川さんと蒼井さんですけど、お名前はご存じですよね」
 ふん。主眼、とやらがポシャったのなら、こっちには何の義理もない。
「はい。あまり接触しないように、とのことでしたから」
 スーツが赤城さんを睨みつけた。
「いいいいいえ、あのあのあの、そそ、それはそういうことではなくて、あの、仕事での接触というか、それぞれの仕事はそれぞれで、という意味だったんですが」「はあ、そうですか。出勤時間もまちまちでしたし、特に話すこともありませんでしたからね」
 スーツが、あー、やっぱりなー、という顔をした。
 製造業の派遣が大勢切られて、本格的に派遣の男子があぶれ出した。
 男子ならパソコンできるはず、という厚労省かどっかの思い込みだろう、一般派遣に若い男子がどんどん入り込んできている。
 入り込んできた、はいいが、可哀想に、ろくにOJTもしてもらえなくて即契約終了、っていうケースが多発しているらしい。
 んで、それは前任の中年以上の女の派遣が意地悪だからだ、っていう流れになってきている、らしい。
 まあ確かにさ、意地悪なやつ多いけどさ。特に四十過ぎても派遣してる女には、魔女みたいのがいっぱいいる。でも、魔女にもいいのと悪いのがいて、とびきりに頭がよくて教えるのも巧くて、なんで社員でないのか分からないくらい優秀なのも一杯いるよ。
 事務の経験があまりない若い男子に、基礎もないままいきなりOA事務させようっていうのが乱暴なのさ。
 そういうミスマッチ起こしてるの、コーディネーターたる派遣会社さんだよね、赤城さん。
「ところで、事務所に私物は置いておられましたか?」
 金曜にあらかたコップやらハンカチやらは持って帰るけど。
「たぶんあると思いますけど」「私どもこちらでお待ちしておりますので、取ってきていただけますか」
 あのなあ、そういうことは来る前に言ってくれよ、大きいもんだったら持って帰れないだろうが、と言いたいところだったが、エコファシズムの犠牲者なので折り畳みの買い物袋を持っていた。
 つまりビルの電気系統の故障うんぬんっていうのは嘘だったわけで、へー、派遣会社ってそんな嘘つくんだねー、そう思いながら四階に上がる。
 なんか、妙に明るい。パーテーションが全部なくなっている。いや、外されているだけだ。
 机が三つ、並び方はもとのままで、でも白いソファーや、一階から持ってきた椅子やテーブルはなくなっていた。PCもない。なぜだか、机の椅子もない。
 自分の引き出しを開けてみる。ハーブティの箱が、ころんと転がっている。
 そうだ。蒼井君の電気ポットもない。白川君のフックも、サボテンの鉢植えもない。
 一瞬躊躇して、でも、白川君の引き出しを開けた。何もない。ペン一本ない。
 蒼井君も。マジック一本ない。
 そうか、そういうことか。
 もう、二人ともいないんだ。二人とも、プリペイドカードもらって、辞めたんだ。
 ハーブティの箱を鞄に放り込うとして、けれど猛烈に腹が立って、だから一つだけ残っていたハイビスカスのティーバックを破って赤紫の花を取り出して、部屋の窓に向かって投げつけた。

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